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歴史と雑学

果物と野菜に関するなるほどがいっぱい #:132 2011.11.08更新 <監修: 医学博士 長野美根>

「お箸」ストーリー

世界最古の箸が発見されたのは、紀元前1600年頃から栄えた中国の殷王朝の遺跡。その箸は青銅製で、祭礼の儀式のためのものだったと考えられています。中国で箸を食事に使うようになったのは紀元前5世紀頃の戦国時代。その後、箸の文化はさまざまな中国文化とともに日本をはじめアジア各国に広まりました。日本人が中国の影響を受けて箸で食事をするようになったのは7世紀頃で、奈良時代の宮廷でのことです。当時の貴族たちはそれまで手で食べていたのをやめ、箸を使うようになりました。以後、日本では他のアジアの国々に例を見ない、独自の箸文化が発展することになったのです。その謎を解くために、お箸にまつわる物語を追ってみましょう。

箸だけで食べるのは日本人だけ

箸だけで食べるのは日本人だけ

箸を取り入れた奈良の宮廷の人々も、最初は中国にならって箸と匙で食べていたようです。中国や韓国では、古くから食事には箸とともにレンゲなどの匙も添えられ、おかずは箸で、ご飯やスープ類は匙でいただきます。このとき椀は手で持ち上げず、テーブルに置いたままで食べるのがマナー。だからこそ匙が必要だともいえます。これは現在でも変わりません。
 ところが、日本ではしだいに箸のみで食べるようになります。汁物も具はお箸で食べ、汁は椀を持ち上げて直接すすって飲むようになったのです。これは、箸を使うアジア各国の中でも日本だけの特徴です。また、箸の置き方も日本では箸先を左にして横に置きますが、他のアジアの国々では箸先を向こう側にして、匙と並べて縦に置きます。食事が終わったら、そこで初めて箸を横に置き、それが「ごちそうさま」の合図になります。

箸の長さや形は食文化によって違う

日本の箸が中国や韓国の箸と大きく違うのは、まずその長さです。中国や韓国では料理は大皿に盛られ、そこから自分の箸で自分の皿に取ったり、人の皿に取り分けたりします。そのため、箸は遠くの料理や、人の皿に届きやすいように長めになっているのです。また、箸先は日本の箸のように尖っていません。これは会食する相手に敵意がないことを表すためだといわれています。
 一方日本では、料理を大皿に盛る場合は取り箸が用意されます。取り箸で銘々皿に料理を取り分けたら、自分の箸で食べるのがマナーです。直箸はごく親しい人や家族で食事する以外はタブーとされます。家族それぞれが自分の箸を持っているのも日本だけの習慣で、夫婦箸、子ども用の短い箸なども他の国にはありません。また、日本の箸は先が細く尖っているので、骨のある魚などをほぐして食べるときや、小さな豆をつまむときにも便利です。さらに、豆腐などのやわらかいものなら箸で挟んで切ることもでき、ナイフの役割も果たすという優れものなのです。

「箸の国」日本ならではの使い分け術とは?

「箸の国」日本ならではの使い分け術とは?

独自の箸食文化が展開した日本では、材質・形共に多種多様な箸が使い分けられてきました。「箸」という漢字に竹冠がつくように、日本に箸が伝えられた奈良時代は竹の箸が主流でした。その後、杉や檜をはじめ、さまざまな材質の箸が登場します。南天の箸は「難を転ずる」という意味をこめて使われ、薬効があるとされるモジの木で作る黒文字の箸は菓子用の取り箸として使われます。漆の箸が登場したのは鎌倉時代。軽くて使いやすく、美しいことから、江戸時代には庶民にも普及しました。色や柄も豊富なので、家族がそれぞれの銘々箸をすぐに見分けることができ、現在も多くの家庭で愛用されています。
 また、箸の形は一端だけが細くなっている「片口箸」が一般的ですが、箸の両端が細くなっている「両口箸」もあります。これは祭祀やお正月などのハレの場で使われます。例えば、千利休が客人をもてなすために、その都度香りのよい吉野の赤杉を削ったという「利休箸(利久箸)」も両口箸で、持ちやすいように中央がふくらんでいます。その他、お正月などの祝い事に使われる丸くて白い「柳箸」も両口箸です。これは日本には神と同じものを食すという「神人共食」の考え方があるためで、「両口箸」には一端で神様が、もう一端で人が食べるという意味がこめられています。このように日本人は、特別な日である「ハレ」には、普段の生活である「ケ」とは区別して、使う箸の形にも特別な想いをこめてきたのです。