バナナがかかる病気とは? 生物学者 青山学院大学教授 福岡伸一氏

福岡伸一 SHIN-ICHI FUKUOKA

生物学者。昭和34(1959)年、東京都生まれ。京都大学大学院農学研究科にて博士後期課程修了後、アメリカ・ハーバード大学医学部研究員、京都大学助教授などを経て、現在は青山学院大学総合文化政策学部教授を務めている。主な著書に『生物と無生物のあいだ』(講談社)、『動的平衡 生命はなぜそこに宿るのか』(木楽舎)、『ルリボンカミキリの青』(文藝春秋)、『フェルメール 光の王国』(木楽舎)などがある。NHK BSプレミアム「いのちドラマチック」にレギュラーコメンテーターとして出演中。

原種のバナナには、黒い種がある

甘くておいしいバナナは、小さい子どもからお年寄りにまで愛されているフルーツです。
私はバナナの専門家ではありませんが、出演しているNHKの生物番組*で
バナナの歴史を紐解いていくと、非常におもしろい植物であることがわかったのです。
その一例が、バナナにはもともと黒い種があったということです。
バナナの起源はおよそ4万年前といわれていますが、
当時の野生のバナナは、あけびのような硬くて黒い種だらけで、実の部分が少なかったそうです。
その後、バナナが交配していく中で、自然のいたずらとしてあるとき、種のないバナナが生まれたのです。

  • バナナの原種であるフィリピン原産の「ムサ・バルビシアーナ」 には、硬くて黒い種がぎっしりと詰まっている
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種なしバナナは、「株分け」で仲間を増やす

繁殖するための植物の主な戦略が、おしべとめしべによる受粉です。
きれいな花や実で昆虫や鳥を引き寄せて、種を別の場所へと運んでもらいます。
もう一つの繁殖の戦略が「株分け」です。自分のからだの一部を別の場所に移して育てるのですが、
同じ遺伝子を持っているため「クローン」とも呼ばれます。
種がないことは植物にとって困ったことですが、種なしバナナは人間にとって食べやすく都合が良かったので、
株分けという方法で仲間をどんどん増やすことができたのです。
こうして今や、熱帯地域を中心に100カ国以上で栽培され、300種以上の種なしバナナがあるといわれています。

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1900年代初め、ジャマイカでたまたまグロス・ミシェル(Gros Michel)というバナナを見つけたフルーツ商が、
「クリーミーでおいしいこのバナナでひとやま当てよう」と輸入を始めたところ、
アメリカで瞬く間に人気となりました。中南米のホンジュラスに広大なグロス・ミシェルの農園をつくり、
生産する人達も裕福になったため、「バナナ・ドリーム」という言葉が生まれたほどです。
ところが1900年代半ば、グロス・ミシェルに突然悲劇が襲いました。
バナナが枯れたり、黒ずんだりする「パナマ病」が急速に広まったのです。
病原菌はカビの一種、フザリウムです。株分けにより同じ遺伝子を持つグロス・ミシェルは、
パナマ病の病原体に侵されやすいという同じ弱点を共有していたため、壊滅的な被害を受けてしまったのです。

  • パマナ病に侵されたバナナの幹は黒くなり、腐ってしまう
  • グロス・ミシェルを絶滅に追いやったパナマ病の病原菌、フザリウム
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パナマ病に強いキャベンディッシュと、新パナマ病

何年もの研究により、パナマ病に強いキャベンディッシュ(Cavendish)という種が見つかりました。
キャベンディッシュには根から病原体が侵入するのを防ぐブロックシステムや、
菌をやっつける防御システムがあるといわれています。
一時は危機に陥ったバナナ産業でしたが、キャベンディッシュが救世主となり、盛り返したわけです。
ところが現在、日本で一番食べられているキャベンディッシュを脅かす、
パナマ病に似たカビの変異体による「新パナマ病」が、東南アジアを中心に報告されています。
このような病原体と宿主となる生物のせめぎあいは、バナナに限ったことではありません。
バナナにもカビ側にも一生懸命な生存戦略があるように、
生命の歴史38億年をふりかえるとあらゆるところで起こっているのです。

  • 日本で一番食べられているキャベンディッシュ
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希望の種ができるのは、100万分の3の確率

新パナマ病に強いバナナを開発するには、
さまざまな遺伝子を交配させて新たな性質を見つけなければなりません。
そのため、原点に戻って種からバナナを育てる必要があるのですが、
種なしバナナと種ありバナナを交配させても種ができるのは100万本にたった3粒だというのです。
研究が進められ、新パナマ病に強い「FHIA-25」という品種が誕生しましたが、
味がシンプルすぎるため今後の改良に期待が寄せられています。

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おいしいバナナには、人間の努力が詰まっている

バナナは自然の恵みであり生物ですから、供給する企業としては、
バナナそのものの生物多様性を守るだけでなく、地域一帯の生態系の保全に想いを馳せるということも大切です。
もともとバナナも、他の植物や生物とともにその地域の生態系を構成する一員なので、
単一の植物だけを広大に栽培することで、周辺環境への負荷が大きくなる可能性があるということを忘れてはいけません。
また、私たち消費者にとって種のないおいしいバナナは魅力的ですが、
その裏には進化のせめぎ合いの中で人間がバナナを守ってきた歴史があります。
新しい病原体に強いバナナを開発したり、種を保存したりする人たちの努力によって、
バナナのおいしさが支えられているということを、たまには思い出せたら良いのではないでしょうか。

*NHK BSプレミアム「いのちドラマチック」

【放送日】毎週水曜 午後7時30分~
【再放送】木曜 午前8時00分~、翌火曜 午後3時00分~

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