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なぜ、近江屋洋菓子店の「フルーツポンチ」に人々はときめくのか? 5代目店主が語る“クラシック”の価値

色鮮やかな旬の果物がビンいっぱいに詰まった“フルーツポンチ”で有名な東京・神田の近江屋洋菓子店。このほど、そんな近江屋洋菓子店とDoleがコラボしたフルーツポンチが9月20日からコンビニエンスストアで発売されることに。これを記念して、近江屋洋菓子店5代目店主・吉田由史明さんにインタビュー。同店の歴史や洋菓子へのこだわり、フルーツポンチに込めた思いなどを語っていただきました。

代々受け継がれる、“リーズナブルだけれどチープではない”という考え方

神田にある近江屋洋菓子店

―“フルーツポンチ”を看板商品とし、昔から変わらない洋菓子を世に送り続け、多くの人に愛されている東京・神田の近江屋洋菓子店。創業から100年以上も続く老舗ですが、まずは、5代目店主・吉田由史明(よしだよしあき)さんにお店の歴史や背景について伺いました。

近江屋洋菓子店は、僕の曽祖父である平三郎が、明治17年(1884年)に本郷で炭屋を始めたのが始まりです。平三郎の妻が彦根出身だったことから、商人の鑑とされる近江商人にあやかって、屋号を近江屋としたそうです。

ただ、炭屋では、夏場は商いが成り立たないことから、思案の末に、これからはパン屋がよいだろうということで、パン屋に切り替えたそうです。その後、2代目の菊太郎がアメリカに渡ってミルクホールで働いていた際に、カステラパンのようなケーキの作り方を教わり、帰国後、近江屋に入りました。そして、ぶどうを入れたロックケーキと名付けたケーキを手がけていたそうです。その後、3代目増蔵が、洋菓子メインの店へとシフトチェンジし、昭和41年(1966年)に、神田にあった建物を建て替えて、現在の店舗ができました。

フルーツを使った商品に力を入れるようになったのは、お店のすぐ近くに、当時、東洋一と言われていた大田市場があり、新鮮なフルーツが手に入れやすかったためです。

ブドウのショートケーキ

―そのような長い歴史を誇る近江屋洋菓子店ですが、代々大切にしていることはありますか?

当店は、もともとは炭屋から始まって、パン屋、洋菓子店と変わってきたこともあって、先代からも、商品については守らなきゃいけないと言われていることはないんです。ただ、変わらずに守っていることがあるとすれば、お客様を一番に考えることですね。

たとえば、天井が高く、広々とした昔のままの建物を好きで通ってくださっている方も多くて、そういう方々からは空間を変えないでほしいという声が多いので、変えてはいけないと思っています。一方で、味の趣味嗜好は時代と共に変わっていくので、そのときにベストなものを作るようにしています。そういうふうに、常にお客様を第一に考えています。

―近江屋洋菓子店のショーケースには、いつも見るだけで心が躍るような洋菓子が並んでいますが、改めて、商品の特長を教えてください。

“リーズナブルだけれどチープではない”という考え方が、代々受け継がれている当店の商品のコンセプトで、質のよいものを手に取りやすい価格で提供しています。

僕がこのお店に入った初日に、喫茶(現在は喫茶コーナーは休止中)のお客様から手紙をいただいたんですよね。その手紙に、“子どもの頃、父によくこのお店に連れてきてもらいました。今は、自分に子どもができて、ここで一緒に食事をしています”と書いてくださって、とてもうれしく思いました。そんな感じで3世代にわたって足を運んでくださる方もいて、老若男女、誰が食べてもおいしいと思えるというのが、当店の商品の大きな特徴だと思います。

フルーツを使ったアイスクリーム

最近は、さまざまな趣向を凝らしたストライクゾーンが狭いケーキ屋さんが増えましたが、当店は逆に、ストライクゾーンが広いんです。おじいちゃん、おばあちゃんがお孫さんに食べさせたり、逆にお孫さんがおじいちゃん、おばあちゃんに贈ったり。そんなふうに、どの世代の方が食べてもおいしく感じるのが当店の洋菓子の特徴です。“ケーキが食べたい”と思ったときに、みんなが最初に想像するようなケーキを、変わらずに作るようにしています。

「フルーツは、なくてはならない存在です」

―近江屋洋菓子店といえばフルーツを使った商品が人気のようですが、フルーツはどんな存在ですか? また、フルーツを使った商品作りで、大切にしている点とは?

生のフレッシュなフルーツは、当店にとってなくてはならない存在ですね。お客様もやはりフルーツを使った商品を求めて来られますから。ですから、たとえば、シャインマスカットでも、スーパーでは手に入らないようなおいしいものを選んでいたり、常によいものを厳選しています。飾り用のフルーツと加工に使うフルーツでも目的が異なるので、商品ごとに選び分けて、適正価格で提供できるようにしています。

季節のフルーツを贅沢に使ったケーキ

―フルーツを使った商品を通して、食べる方にどんな気持ちになってほしいですか?

日本人は、おいしいものを食べたときに、一番幸せを感じるそうです。日本は、おいしいものに恵まれているからだと思います。それはとてもいいことですよね。ですから、フルーツを使った商品に限らず、当店の商品を食べたときに、幸せになっていただけたらとてもうれしいです。

旬をぎっしり詰め込んだ、近江屋洋菓子店謹製「フルーツポンチ」

旬をぎっしり詰め込んだ、近江屋洋菓子店謹製「フルーツポンチ」

―近江屋洋菓子店と言えば、やはり“フルーツポンチ”が代名詞ですが、この商品の誕生にはどんな想いや背景があったのでしょうか?

フルーツポンチは先代が作ったんです。僕には姉がいるんですが、僕らは親の影響からか、子どもの頃から自分で料理を作るのが好きだったんですよね。それで、姉はよく自分でフルーツポンチを作って冷蔵庫に入れていたんですが、先代がそれを見たときに、フルーツポンチは保存をしても色が変わらないことに気づいたらしくて。色の変化って、商品化するときに大きな問題になる点なんですが、フルーツポンチの場合は、いちごのように一部変色しやすいフルーツをのぞくと、色が変わらない。それが、商品化しようと思ったきっかけだと聞いています。

―ビンに色鮮やかなフルーツの断面が並んで詰められている“映える”見た目も、フルーツポンチの人気の点ですよね。

瓶への詰め方は、当時の製造責任者が芸大の出身だったらしく、その人がこだわって考えてくれたようで、それがずっと受け継がれています。

―中に使うフルーツの選定やバランスは、どのように決めているのですか?

そのときの旬のフルーツの中から、フレッシュで状態もベストで、見た目もきれいなものを選ぶようにしています。ただ、超高級なフルーツだったりすると糖度が高すぎたりしますが、そういったものはほかのフルーツとの調和が取れません。フルーツを一品だけ使う商品と違って、フルーツポンチはバランスも大事なので、調和が取れるものを選ぶようにもしています。

ショーケースに並ぶフルーツポンチ

―フルーツポンチは、どのようなお客様がどんな目的で買い求めているのでしょうか? 

ご贈答用にされる方が多いです。お世話になった方に贈ったり、ホームパーティに持って行ったりされる方も多いようです。お客様の反応としては、SNSで見かけたもので言えば、“両親が食欲がないときでも、このフルーツポンチなら食べてくれる”という声がありましたね。それから、ホームパーティにはワインを持っていく人が多い中、フルーツポンチを持って行ったらすごく喜ばれたという声もありました。そういった声はとてもうれしいです。

今回Doleとのコラボで生まれたコンビニ限定フルーツポンチの特徴やこだわりとは?

特にこだわったのは、缶詰のミックスフルーツ缶みたいにはならないようにしたいという点です。缶詰のように賞味期限を長くするほうが、作っていただくメーカーさんにとってはありがたいとは思うのですが、そうすると当店のフルーツポンチのようなフレッシュさや食感がどうしても失われてしまいます。ですから賞味期限は45日と短めですが、低温殺菌にして、フレッシュさと食感が残るようにしました。市販のフルーツポンチの中では、いちばん食感がいいものに仕上がっていると思います。切り方にもこだわって、キウイなども断面が見えるように厚めに切って容器に入れてもらったりと、見た目も当店のフルーツポンチに近づけていただきました。シロップも当店の秘伝のものと同じ味わいになっています。

また、当店は包装紙のイラストも人気で、これは創業当時、美大生だった女性に描いていただいたものなのですが、このイラストが今回のコラボ商品にも使われています。

近江屋洋菓子店のアイコンとも言える包装紙イラスト

―今回のコラボは、近江屋洋菓子店さんにとってどんな目的や狙いがあるのですか?

当店にお越しになる方は、35〜55歳の方が中心なのですが、今後、近江屋洋菓子店をもっと若い世代の方にも知っていただきたいので、コンビニエンスストアでたくさんの方に商品を手に取ってもらうことが目的です。ぜひ、みなさんに食べていただきたいです。

「流行りに流されないクラッシックな味を、知ってほしい」

近江屋洋菓子店のアイスクリーム

―“近江屋洋菓子店らしさ”として、これからも守っていきたいことは何ですか?

この店を100年以上続けて来られたのはお客様のおかげなので、お客様が守ってほしいとおっしゃってくださるものは、守っていきたいと思っていて。そのひとつが、先ほどもお話ししましたが、お店のこの空間です。現在のビルを建て替えたのが昭和41年で、そのときからほとんど変えていなくて、4年ほど前に改装工事をしたときも、まったく同じに作ってもらったんです。費用はかかりましたが、お金より大切なことがありますから、この空間は大切に守っていきたいです。

近江屋洋菓子店の内観

―伝統を守っていく一方で、新しいお客さまに向けて意識していることや取り組んでいることはありますか?

最近、製菓学校など、お菓子職人を目指す人の学び場が減り、学べるレシピや技法が限られることで、スポンジなどを含めてお菓子の作り方が均一化してきていると言われています。そんな中、当店は昔と変わらず、小麦粉、卵、砂糖だけでスポンジを作っていて、そこは変えずに続けていこうと思っています。歴史はすぐには作れないし、歴史を持っている者にしか作れない味がありますから。ですから、流行りに流されないクラシックな味を、新しいお客様や若い方にも知っていただきたいと思っています。

―Doleは「フルーツでスマイルを。」という理念を掲げています。吉田さんが思う「果物の力」とは、どんなものでしょう?

フルーツはやっぱりおいしいですよね。食べて笑顔になれるって素晴らしいことです。フルーツはそういう意味で一番だと思います。これからも変わらず、おいしいフルーツを使った商品を提供していきたいですね。

※記事の情報は2025年9月19日時点のものです。