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快眠成分として注目の「トリプトファン」とは? どんな食べ物に含まれる?

最近、快眠成分として注目されているのが「トリプトファン」。この成分は実は、バナナなど、身近な食品から摂ることができるとか。そこで、管理栄養士で理学博士の古谷彰子先生に、トリプトファンの効能やおすすめの摂り方などについて詳しく解説していただきました。

教えていただいたのはこの方
古谷彰子先生

古谷 彰子(ふるたに あきこ)さん
博士(理学)、管理栄養士、アスリートフードマイスター。
愛国学園短期大学家政科准教授、早稲田大学ナノ・ライフ創新研究機構・招聘研究員、アスリートフードマイスター専任講師、発酵料理士協会特別講師、ChronoManage代表。「体内時計」と「時間」という観点から、医学、栄養学、運動といった領域にアプローチしている。著書に『食べる時間を変えれば健康になる 時間栄養学入門』など多数。

今、注目の栄養素「トリプトファン」とは?

最近、「トリプトファン」という栄養素に注目が集まっています。これは、必須アミノ酸の一種です。

アミノ酸とは、私たちの体をつくるタンパク質を構成する成分で、全20種類あります。そのうちの9種類は、体内で合成することができず、食事から摂る必要があることから必須アミノ酸と呼ばれ、トリプトファンはそのひとつです。

そんなトリプトファンが、今、注目されている理由は、現代人に多い睡眠やメンタル面の不調の改善をサポートしてくれるからです。

「トリプトファン」の働きとは?

トリプトファンを含む食品を摂ると、肝臓で代謝されて、一部は脳に運ばれ、「セロトニン」という神経伝達物質に変わります。

セロトニンは、脳の覚醒作用があるほか、精神を安定させる作用があることから、別名“幸せホルモン”とも呼ばれています。朝にトリプトファンを含む食品を摂ると、1日を通じて気分が安定し、ストレス耐性が向上したという研究報告もあります。これはセロトニンの働きによると考えられます。

そしてセロトニンは、夜になると、「メラトニン」というホルモンに変わります。メラトニンは、眠気をもたらす働きがあることから“睡眠ホルモン”とも呼ばれ、これが夜にしっかり分泌されることでスムーズに寝付けるようになります。

つまりトリプトファンは、夜にしっかりとメラトニンを分泌させるための重要な栄養素です。不足すると、メラトニンも減ってしまい、睡眠の質が下がってしまうので、毎日の食事でしっかり補うことが大切です。

「トリプトファン」は、どんな食べ物に含まれる?

トリプトファンは、タンパク質を多く含む食品に多く含まれています。特に多く含まれる食品は、牛乳やヨーグルト、チーズなどの乳製品のほか、豆腐や納豆などの大豆製品、卵、肉、魚、バナナ、オートミール、アーモンドなどです。

「トリプトファン」を摂るためにバナナがおすすめの理由は?

トリプトファンを摂るために特におすすめの食品がバナナです。

トリプトファンが脳に運ばれてセロトニンを作るときには、ビタミンB6、ナイアシン、マグネシウム、鉄などの栄養素が必要になります。また、トリプトファンが脳に移行するときには糖質も必要です。「トリプトファン」はサプリメントからでも摂ることはできますが、バナナにはトリプトファンだけでなく、ビタミンB6、ナイアシン、マグネシウム、糖質も含まれていて、これらを一度にまとめて摂ることができるのがメリット。また、バナナはいつでも手軽に食べられるため、毎日続けやすいという利点もあります。

バナナはいつ、どう食べるべき?

トリプトファンの効果を得るために、バナナを摂るとよいタイミングは「朝」です。先にも述べたようにトリプトファンは、朝摂ると夜にメラトニンに変わって寝つきをよくしてくれるので、朝食に摂るとよいのです。

また、睡眠の質を高めるためのさらなるコツは、朝日を浴びながらバナナを摂ることです。

人間の体には「体内時計」が備わっていますが、脳にある体内時計の主時計は、地球の1日の自転周期の24時間より少し長い周期を持っています。この「ずれ」を毎日リセットしないと、地球の1日24時間周期と体内時計がだんだんずれてしまい、時差ぼけのような状態になりやすくなります。

そこで、体内時計を24時間周期に正しくリセットするために欠かせないのが、毎日、朝日を浴びることです。朝日を浴びると目の奥の網膜から光の刺激が脳に伝わり、これを合図に体内時計が24時間周期にリセットされます。

また、朝日を浴びるとセロトニンの分泌も促され、夜にメラトニンに変わります。ですから、朝日を浴びながらバナナを食べると、相乗効果で夜にメラトニンがよりしっかりと分泌されるようになり、スムーズに眠れるようになるのです。バナナなら、食欲がない朝にも摂りやすいのでおすすめです。

どれくらいの量の「トリプトファン」が必要?

WHO(世界保健機関)は、トリプトファンの推奨摂取量を成人で体重1kgあたり4mgとしています。つまり体重50kgの人なら、1日あたり約200mgという計算です。

ただし、摂ったトリプトファンすべてが脳に移行するわけではないので、セロトニンを合成するためには300〜500mgは摂るとよいと思います。とはいえ、体格や代謝の状態には個人差があるので、この量はあくまでも目安です。

そしてバナナ1本(100g)に含まれるトリプトファンの量は約10mg。ですから、1日の必要量をすべてバナナでまかなうのではなく、いろいろな食品を組み合わせて摂るのがポイントです。

たとえば朝食の場合、トリプトファンの量は、トースト1枚(80g)で約80mg、卵1個(50g)で約95mg、牛乳1杯(200ml)で約92mg。ここにバナナを1本足すと、朝食だけで合計280 mgほどを摂ることができます。

また、ツナにもトリプトファンが多いので、ツナサンドに牛乳にバナナといった朝食もよいですし、オートミールにバナナを加えたり、牛乳でバナナジュースを作ったりするのも、摂りやすくてよいと思います。

トリプトファンを摂るのにおすすめの朝食

「トリプトファン」と組み合わせて摂るとよいものは?

トリプトファンがセロトニンに変わるときには、ビタミンB6、ナイアシン、マグネシウム、鉄、糖質が必要なので、これらを含む食品を一緒に摂るのがおすすめです。

  • ビタミンB6・・・鮭、鶏肉、ナッツ、バナナ
  • ナイアシン・・・たらこ、きのこ、鶏胸肉、レバー
  • マグネシウム・・・豆腐などの大豆製品、海藻類、ごま、アーモンド、バナナ
  • 鉄・・・レバー、赤身肉、マグロ、かつお、大豆製品、小松菜、ほうれん草
  • 糖質・・・ごはん、パン、麺

どれくらい「トリプトファン」を摂り続けると効果を感じる?

睡眠は、一晩ぐっすり眠れればそれで良いというものではありません。毎日夜にしっかりとメラトニンが分泌されるリズムを作ることが大切です。そのためには、トリプトファンは毎日続けて摂るのが理想的。10日ほど続けると、夜の寝つきが変わってくるのを感じることが多いと思います。メンタルへの効果については、もう少し時間がかかり、トリプトファンを1ヶ月ほど摂り続けたところメンタルが安定したという報告もあります。セロトニンの効果と、睡眠の質の改善によって、メンタルの状態が落ち着いてくるためと考えられます。

睡眠の質をよくして、気持ちも前向きにするために、ぜひ朝食にバナナを取り入れてみてください。

※記事の情報は2025年8月6日時点のものです。