暑い季節だけでなく、冬でも起こりやすいといわれる熱中症や脱水。その背景には、体内の水分やミネラルのバランスが関わっています。こうしたテーマとあわせて注目されているのが、ちょっと意外な組み合わせの「塩バナナ」。トレイルランニングの救護現場で生まれたこのアイデアは、特別な道具を使わず、手軽に取り入れられる食の工夫として広まりつつあります。今回は、塩バナナの考案者である福田六花先生に、その魅力や誕生の経緯、取り入れ方を伺いました。
お話をしてくれたのはこの方
福田 六花(ふくだ りっか)さん
医師・医学博士(聖マリアンナ医科大学・同大学院卒業)
一般財団法人日本トレイルランニング協会・会長
公益財団法人ランナーズ財団・理事
山梨県老人保健施設協議会・会長
全国老人保健施設協会・常務理事
介護老人保健施設はまなす施設長(山梨県・富士河口湖町)
やまなし大使
1965年東京生まれ。大学病院外科医時代にストレスからくる暴飲暴食で93kgまで体重が増えるも、1996年にランニングと出会い30kg以上の減量に成功。2002年富士山麓に移住し、医師業の傍らマラソン、トレイルランニングレースに多数出場。現在は日本全国でレース・プロデュースを行うことで、健康生活への提言を続けている。
体を動かした後や入浴後など、日常の中で「水分やミネラルをどう補おうか」と考える場面は意外と多いもの。そんな中で、身近な食材を使ったシンプルな工夫として注目されているのが、文字通りバナナと塩を組み合わせた「塩バナナ」です。
手間いらずで、習慣にしやすいことから、スポーツをする人や体調管理を意識する人のあいだでも取り入れられているこのアイデアについて、考案者の福田六花先生にお話を伺いました。
まずは、その作り方をご紹介します。
塩バナナの作り方

作り方はとても簡単! バナナの皮をむき、食べる直前にひとつまみ程度の塩をパラパラッとふるだけです。
塩をかけすぎると塩分の摂りすぎになるため、ほんのり塩味を感じる程度がおすすめです。塩をふってから時間が経つとバナナから水分が出てドロッとしてしまうので、食べる直前に塩をかけるようにしてください。
目次
季節を問わず気をつけたい、水分不足と熱中症のリスク
――塩バナナのお話を伺う前に、まずは熱中症や脱水症状の基本について教えてください。これらは、夏以外にも起こりうるそうですが、なぜなのでしょうか?
熱中症や脱水は、暑い季節だけのものと思われがちですが、気温以外の要因でも起こりやすくなります。とくに、体の中の水分や塩分のバランスが乱れたときに注意が必要です。
冬は空気が乾燥しているうえ、暖房の効いた室内で過ごす時間が長くなる方が多いです。そのため体から水分が失われやすくなります。ですが、夏のように暑くはないので、「水分を摂ろう」という意識がどうしても薄れがちになってしまうんです。また、冬でも寝ている間には汗をかきます。特にあたたかい寝具を使っていると、思っている以上に体から水分が失われていることも少なくありません。こうして脱水が進むと、体温調節がうまくいかず、熱中症を引き起こしてしまうケースがあります。
――日常生活の中で、脱水が起こりやすい場面はありますか?
よくあるのが、お酒を飲んだときです。アルコールには利尿作用があるので、水を飲まずにお酒だけを飲んでいると、体の水分が不足しやすく、脱水状態を招きやすくなります。また、コーヒーや緑茶に含まれるカフェインにも利尿作用があります。たくさん飲むと、水分補給をしているつもりでも、実際には水分が体の外に出ていってしまい、気づかないうちに脱水につながることがあります。
それから、寝る前に水分を摂らないことも要注意です。たとえば7時間寝る人なら、7時間もの間、ずっと水分を摂らない状態になり、脱水は進みます。特に冬は、寒くて夜中にトイレに行きたくないからと水分摂取を控える方も多いですが、これも脱水につながる要因のひとつです。

――本人が気づきにくい「隠れ脱水*」は、どんな人に多い印象ですか?
特に注意が必要になりやすいのが高齢者です。老人保健施設での診療経験上、加齢に伴い腎機能が低下している場合があり、体内の水分を保ちにくくなることがあります。また、喉の渇きを感じにくくなることもあるため、気づかないうちに水分が不足し、「隠れ脱水」につながるケースが少なくありません。認知症の方は特に自覚しづらい傾向にあるので、周囲の方の見守りや声かけが大切です。
もうひとつ注意したいのが、子どもです。子どもは体温が高く、汗をかきやすい一方で、腎臓の機能がまだ十分ではありません。喉が渇いていても自分から伝えないこともあるので、保護者が意識して水分補給を促してあげるのが望ましいですね。
そのほか、普段からあまり意識的に水分を摂っていない人も、「隠れ脱水」になりやすい傾向があります。
*隠れ脱水…本人に自覚がないまま、体内の水分や塩分が不足し、脱水になりかけている状態のこと。
なぜ「バナナ+塩」? 日々の健康を支える“ミネラルバランス”の視点
――熱中症や脱水への意識が大切、ということがよく分かりました。その中で、塩バナナはどのような役割を果たすのでしょうか?
人体が健やかな環境を保つには、カリウムとナトリウムが大切な役割を担っています。これらが互いに関わり合いながら、細胞内外の環境を整えることで、体内の水分バランスが保たれています。
それに加えて、もうひとつ大切なのがマグネシウムです。マグネシウムは、筋肉や神経の働きに関与するミネラルとして知られており、体のさまざまな働きを支えています。こうした観点から、水分やミネラルが失われやすい状況では、マグネシウムも意識しておきたい栄養素のひとつだと考えています。たとえばバナナは、こうしたカリウムやマグネシウムを補給できる、身近な果物の代表格といえます。
一方で、バナナにはナトリウムがほとんど含まれていません。そこで、ナトリウムを補う工夫として「塩を加えてみよう」と考えたことが、「塩バナナ」誕生のきっかけでした。
――ミネラルチャージに経口補水液やスポーツドリンクを摂る人も多いですが、塩バナナは補給手段としてどのように位置づけられますか?
経口補水液やスポーツドリンクでも、カリウムやナトリウムは補給できるので、もちろんそれらを利用しても問題ありません。ただ、これらの飲料にはマグネシウムはあまり含まれていないものが多い印象です。マグネシウムにも目を向けたい場合、「塩バナナ」はミネラルの組み合わせを考えるうえで分かりやすい形だと思います。
どちらが優れているということではなく、あくまでもひとつの選択肢として捉えていただければと思います。塩バナナは食べ物なので、空腹が満たされるといったメリットもありますね。
塩バナナ誕生のきっかけは、過酷な“現場”の気づきから
――福田先生は「塩バナナ」の考案者でいらっしゃいますが、誕生の経緯を教えてください。
私は20年以上前から、山道や林道といった舗装されていない道を走る「トレイルランニング」という競技を続けています。選手として大会に参加するほか、大会の運営や、救護医を務めることもあります。
実は塩バナナは、トレイルランニングの現場で起こりがちな“急な筋肉のトラブルで体が動かなくなる事態”を少しでも減らしたいと考えたことがきっかけで生まれました。
ある年の5月、厳しい暑さの中で行われた過酷なトレイルランニングレースで、救護責任者を務めたことがありました。選手たちは山道を上り下りしながら走るため、どうしても大量の汗をかきます。水やスポーツドリンクを背負っていても補給が追いつかず…、水分や電解質がどんどん失われていき、足だけでなく全身がつって動けなくなる人が続出してしまいました。体を触るだけで強い痛みを訴える方も多く、救助する側も手が出せないような、大変な状況でした。
何とかしてこうした事態を減らせないかと考える中で、体をスムーズに動かし続けるには、水分やミネラルバランスを整えることが重要だと気づきました。このバランスを補う食の工夫として、レースの中間地点にあるエイドステーションに、バナナと塩を置くことにしました。

ところが、バナナと塩を別々に置いておくと、ほとんどの選手はどちらか一方しか取らないんです。結局、思うように体が動かなくなる選手はなかなか減りませんでした。
そこで次は、バナナに塩をふってから提供することにしました。選手のみなさんは最初、「えっ、バナナに塩ですか?」と戸惑っていましたが、実際に食べてみると「意外とおいしいですね」と好評で。レース後には、「今回は最後まで元気に走りきれました」といった声も多く聞かれ、レーススタッフの方からも「塩バナナ、いいですね」と言っていただきました。
――多くの補給食がある中で、バナナを選んだ決め手は何ですか?
バナナにはミネラル補給以外にも、メリットがたくさんあります。たとえば、糖質が多く、走っているときに素早くエネルギーになる点。さらに、値段も手頃で、コンビニやスーパーで季節を問わず簡単に手に入れやすいのも魅力です。ほかのフルーツでもミネラルが多いものはありますが、バナナは包丁を使わずにすぐに皮をむけて、どこでも食べられるところもいいですね。さらに、塩をふることで、スイカに塩をふるのと同じように甘みが引き立ち、「おいしい」という声が多かったことも、バナナを選んだ理由のひとつです。
▼あわせて読みたい
塩バナナはどんな場面で使われている? リアルな活用シーン
――塩バナナは、どのように広がっていったのでしょうか?
トレイルランニングの現場で塩バナナを提供するようになり、SNSなどでも発信していたところ、徐々に浸透していき、ほかのレースでも取り入れられるようになりました。
さらに最近では、さまざまな場所で塩バナナが提供されているようです。中には、暑い環境で働く方の水分・ミネラル補給の工夫として塩バナナを活用しているケースもあると聞きました。山梨県の山奥のレースで生まれた塩バナナが、いつの間にか全国に広がっていて、不思議な気持ちです。
――福田先生が実際に「塩バナナ」が役立っていると感じた、印象的なエピソードがあれば教えてください。
私は医師として高齢者の方を多く診ていますが、「夜中に足がピキッとする」「明け方に足がこわばる」といったお悩みをよく伺います。そうしたお悩みを伺う中で、日々のミネラルを補う「夜のおやつ」として塩バナナをご紹介したところ、朝を健やかな気持ちで迎えられている気がする、という声をいただくこともあります。
お悩みに対して使われる漢方薬もありますが、それはあくまで必要な時に取り入れるものです。その点、塩バナナは身近な食品ですから、日々の食習慣として気軽に取り入れやすいのが良いところだと思います。
塩バナナの上手な取り入れ方と、気をつけたいポイント
――塩バナナは、どんな場面で、どのように取り入れられることが多いのでしょうか?
水分やミネラルを意識したいときや、運動などで汗をかきやすい場面で、塩バナナを取り入れている方が多い印象です。診療の場では、夜間に足がつりやすいという相談を受けることも多く、就寝前に手軽にミネラルを補える「夜のおやつ」として塩バナナを紹介した際に、実際に続けているという声をいただくこともあります。
また、マラソンなど長時間体を動かすスポーツの前に、補給のひとつとして塩バナナを食べる選手もいます。ただ、直前だと体が重く感じて動きにくさにつながる場合があるため、少し時間をあけて口にしている方が多い印象です。
──食べる量の目安はありますか?
量については、糖分や塩分の摂りすぎを避けるためにも、1本またはその半分程度を選ぶ方が多いですね。体調や状況に合わせて、無理のない範囲で取り入れてもらえればと思います。
──摂取を控えたいケースや、注意点はありますか? また、塩バナナは日常的に食べても問題ないでしょうか?
塩バナナは食品なので、取り入れ方の工夫として検討しやすい選択肢のひとつですが、カリウムや塩分の摂取に制限がある方は、念のため主治医に相談していただくと良いと思います。特に腎臓疾患、高血圧、糖尿病などの持病がある方はご注意ください。また、糖分や塩分が含まれているため、日常的に取り入れる場合は、食事全体とのバランスを見ながら調整していただくと安心です。
それから、暑い環境で過ごすときや汗をかきやすいときには、水分補給もとても大切です。カフェインを含むものは利尿作用があるため、状況に応じて水や電解質を含む飲料を選ぶと良いと思います。
考案者・福田先生からのメッセージ
――最後に、あらためて福田先生が考える“塩バナナの魅力”とメッセージをお願いします。
塩バナナのいちばんの魅力は、やはり「手軽で、おいしく続けられる」ところだと思います。私自身、今ではバナナを食べるときに塩がないと物足りなく感じるくらいで、それくらい自然に生活の中に溶け込んでいます。

水分やミネラルは、意識しないと不足しがちなものですが、塩バナナは特別な準備もいらず、身近な食材で取り入れられるのが良いところです。高価なものや難しい方法に頼らなくても、日々の食事や間食の延長として続けやすいんですよね。
気になった方はぜひ、気軽な気持ちで、日常の中に「塩バナナ」を取り入れてみてください。
※本記事は特定の症状の改善を保証するものではありません。
※記事の情報は2026年2月27日時点のものです。

