毎月第2・第4水曜日、京都の研究開発企業「ファーマフーズ」の社員食堂にはバナナが並びます。「食」と「健康」を研究する同社が、Doleの「もったいないバナナ」をお届けするサービス「オフィス・デ・ドール」を導入した背景には、どのような狙いがあるのでしょうか。そこには、研究者ならではの視点と、未利用資源を大切にするサステナビリティの考え方がありました。
お話いただいたのはこの方々
左:堀江 健二(ほりえ けんじ)さん
株式会社ファーマフーズ 総合研究所 生産管理部 シニアサイエンティスト
1966年生まれ。静岡県立大学生活健康科学研究科修士課程修了、同年太陽化学株式会社入社。2000年に株式会社ファーマフーズ入社。「GABAの生産技術の確立と高機能食品の市場開発」で2018年に日本農芸化学会・農芸化学技術賞を受賞。総合研究所生産管理部生産開発部長を経て、現在に至る。
右:原田 清佑(はらだ せいゆう)さん
株式会社ファーマフーズ 経営戦略部 部長
1983年生まれ。広島大学大学院にて博士号(学術)を取得。2011年、株式会社ファーマフーズ入社、2015年に開発部部長に就任。タマゴ由来の新規育毛素材や新規創薬シーズの開発などを手がける。2025年、大阪・関西万博推進本部長。ファーマフーズは大阪ヘルスケアパビリオンのプレミアムパートナーとして企業ブースを出展。
目次
「身近なバイオ」を世界へ。タマゴと発酵から生まれる健康の科学

──まず、ファーマフーズがどのような企業なのか教えてください。
堀江 私たちは「身近なバイオ」を研究理念とし、独自性の高い、健康維持に役立つ食品原料を生み出し提供する企業です。研究題材は主に「食」。特に「発酵」と「タマゴ」に力を入れ、世の中にまだ存在しない健康によいものを研究開発することを使命としています。
──どんなものを創り出されているのですか?
堀江 まず「発酵」の技術を用いて創り出した主力製品「PharmaGABA(ファーマギャバ)」があります。乳酸菌の発酵により高純度かつ大量のGABA生産に成功し、2018年には日本農芸化学会で技術賞を受賞しました。当社は現在、世界的なGABAのリーディングカンパニーです。
──「GABA」といえば、身近なところでは機能性チョコレートなどにも入っていますよね。あのGABAを開発されたのですね。
堀江 はい。副交感神経に働くGABAは、血圧改善やストレス緩和、睡眠の質向上などの効果が確認されており、チョコレートのほか、飲料やハムなど、さまざまな食品に利用されています。
もう一つは「タマゴ」の研究です。21日間温めるだけでヒヨコという生命が誕生するタマゴを「生命のカプセル」と捉え、骨や毛をつくりだす成分を発見しました。卵黄由来の独自成分「HGP(エイチ・ジー・ピー)」は当社通信販売部門の主力商品「ニューモ」に利用されています。
──ニューモのCMはよくテレビで拝見します。
原田 当社はバイオの力で新しい価値を創出し、パートナー企業とともに成長してきた会社です。それまでは原料提供が中心で、表に当社名が出ることはありませんでした。しかし2019年の「ニューモ」発売以降、通販部門も大幅に成長し、2021年には東証プライム市場上場企業となりました。さらなる成長戦略として、売上高1,000億円を目標に掲げています。
「オフィス・デ・ドール」をきっかけに考えるサステナビリティ

──今回、社員食堂でみなさんの昼食風景を撮影させていただきました。活気のあるとてもいい食堂ですね。
堀江 食と健康を研究する会社なので、まずは自分たちが口に入れるものから健康にならなければなりません。2006年に本社をここに移転してから、3階の食堂は社員にとってなくてはならない大切な場所になりました。食堂のスタッフは全員社員で、外部委託はしていません。我々の健康を守ってくれる大切な部署なんです。

──そして食堂には、Doleが「もったいないバナナ(規格外バナナ)」をオフィスで働く人々にお届けするサービス「オフィス・デ・ドール」のコーナーもありました。社員のみなさんに浸透していますね。
原田 「オフィス・デ・ドール」は2025年1月から導入し、1年になります。社員ももちろん喜んでいますし、当社代表の金(金武祚社長)もとにかくバナナが大好きで。長い出張の際には、連泊するホテルの部屋にバナナを1房置いておくほど、バナナを身近に感じています(笑)。

研究開発の会社ですから、考える仕事なので脳のエネルギー補給は大事です。それにバナナは腹持ちもいい。食堂で食べられなくても、そのままデスクに持ち帰って、食べたいときに食べられる手軽さも魅力です。一般に、お菓子やジュースで小腹を満たすよりも、果物から必要な糖分を摂取するほうが体に優しく、血糖値の上がり方も穏やかと言われています。生活習慣が気になる社員にとっても、栄養補給としてバナナはぴったりです。
堀江 ダイエット中の私はランチのごはんを抜きますが、バナナは絶対食べます(笑)。
原田 「もったいないバナナ」というコンセプトも心に響きました。食べても何の問題もない、見栄えもそれほど悪くないバナナが規格外として淘汰されていく。弊社でも未利用資源を新しい価値に変えていく取り組みを行っていますが、自然のものを余すことなく大切にいただくのはサステナビリティの重要な原点だと思います。
「もったいない」について我々社員に考えるきっかけを与えてくれた点でも、「オフィス・デ・ドール」はじつにいいプロジェクトだと思います。
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廃棄される青バナナから引き出された“未知の力”
──研究者として、堀江さんはバナナにはどんな力があるとお考えですか?
堀江 バナナを食べると活力が湧くのはなぜだろうと、以前からなんとなく思っていました。でも正直、バナナがそんなに面白い研究テーマだとは思っていませんでした。それがバナナを使った機能性素材「バナファイン」の開発プロジェクトを立ち上げることになり、論文などで調べていくうちにバナナに対する見方がガラッと変わったんです。
青いバナナが数日経つとどんどん黄色くなり、さらに数週間経つと熟したバナナになります。1本100グラムというバナナの内部では化学反応がどんどん行われ、劇的に姿を変えていくのです。熟成が進むとデンプンがオリゴ糖など糖類に分解され、甘みが増します。
タマゴ同様、バナナを身近なバイオ素材として見ると、健康によい成分がそれぞれの段階に眠っているのではないかと考え、研究を始めました。

――そもそも、なぜ「バナファイン」を開発することに?
堀江 2013年ごろドールさんからお話をいただきました。当時、フィリピンで廃棄される青バナナを利用するプロジェクトが発足していたんです。まさにこれも「もったいないバナナ」の発想ですよね。捨てられる前の青バナナの果実を粉にし、それを小麦粉のようにいろいろな食品に利用できないかと相談を受けました。
粉末を舐めてみると、えぐみや舌がしびれるような感覚が強烈で、とても食べられるものではありませんでした。しかもその粉は水に溶けません。熱を加えたり、pHを変えたり、アルコールを加えたり…考えられることはすべて試しましたが、まったく変化しませんでした。
この粉を素材にするのは無理なのではないかとあきらめかけていたところ、アフリカのタンザニアなどでよく飲まれているバナナを発酵させたお酒「ンメゲ(MBEGE)」を発見しました。現地の人たちがンメゲを飲んで楽しそうに笑っている写真を見て、そうか、この粉末を発酵すれば何か見えてくるかもしれない、と。
やってみたら、えぐみがまったくなくなり、ほのかな甘みと発酵食品特有の旨みも感じられるようになりました。そして水にも溶けるようになりました。これが機能性食品素材「バナファイン」の誕生です。

――ちなみに「バナファイン」を摂ることで、どういうメリットがあるんでしょう?
堀江 京都府立医科大学の先生とともに行ったマウスと人での実験で、バナファインはインフルエンザなど感染症を防御できる可能性を持った素材であるという結果が出ました。
バナナを食べるとなんとなく元気になるというのは、バナナには自己免疫力を高める効果や、活力を高める効果が期待できるということです。ンメゲを飲んでいたアフリカの人たちがみんな笑顔であることがそのことを証明しています。
──他に、バナナを使った研究例はありますか?
堀江 今はレジスタントスターチの研究も進めています。レジスタントスターチはバナナなどに含まれる「難消化性デンプン」のことで、脂肪の燃焼を助けたり、食物繊維のように腸内環境を整えたりするデンプンです。特に未成熟の青いバナナには多く含まれています。
しかし、それを食品原料として加工するのは意外と難しく、まだまだ越えなければならない高いハードルがたくさんあります。科学者にとっては面白い研究対象です。
「人と地球」が共存する未来へ。バナナとタマゴが導く、循環型バイオの理想像
──ファーマフーズが食と健康に向き合ううえで、これからも大切にしていきたいことをお聞かせください。
堀江 食が持つ潜在能力を引き出すために、発酵など加工技術力をさらに向上させ、私たちの身体のQOLを高めてくれる本物の素材を研究開発していかなければなりません。
そのためにこれからも大学などと共同研究をし、きちんと効果のあるものを見極め、適正な形で世の中へ出していく──人生100年時代、健康寿命を延ばすために。これがファーマフーズという会社の価値であり、姿勢だと思っています。
原田 2025年の大阪・関西万博で、当社は「ひとと地球にやさしい繊維」というテーマでタマゴの卵殻膜(殻の内側にある薄皮)から生まれた生命の繊維「ovoveil(オボヴェール)」を出展しました。

万博への出展をきっかけに、自分たちが健康になることも大事ですが、これからは人と地球がいかに共存していくかを考える必要があると強く感じました。我々が食と向き合うなかで、どんな世の中になればいいだろうと真剣に考えた結果、人間の営みが自然の一部になることが最終的な目標だと思いました。自然からもらった恵みを余すことなくいただくこと、そして、タマゴの薄皮など今まで捨てるしかないと思っていた未利用資源が役立つことを発見すること。この両軸を進めていくことがとても大事だと改めて思いました。

「オフィス・デ・ドール」がもたらす消費行動の変容と、当社のバイオ技術がもたらす新価値の創造は、サステナブルな未来社会の実現に繋がっています。「もったいないバナナ」のように、農場と生活者を新たな価値観で結びつけること。「バナファイン」や「オボヴェール」のように、食べられない部分も未利用資源として活用すること。この両軸から食と向き合うことが、これからのあるべき姿をつくっていくうえで重要なのではないかと思います。
廃棄されるバナナをゼロにするのは難しい。ただ、技術や考え方で、着実に歩み寄ることはできる。そういった新しいブレイクスルーを提供していきたいと考えています。
※本記事の取材は2026年1月15日に行われました。
※記事の情報は2026年3月12日時点のものです。

