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ヒントは「スナックのママ」! スナック女子・五十嵐真由子さんに聞く、AI時代に“ワクワク”を生み出す方法

“スナック女子”として全国の店を巡り、「スナックエンタテインメント」という新しい価値を発信している五十嵐真由子さん。スナックで、“ワクワクが動き出す瞬間”を、これまで数多く見つめてきました。実は、その時間に彩りを添えている存在のひとつがフルーツです。人を笑顔にするワクワクは、どこから生まれるのか。五十嵐さんの体験と言葉から、そのヒントを探ります。

お話をしてくれたのはこの
五十嵐真由子さんプロフィール

五十嵐 真由子(いがらし まゆこ)さん

オンラインスナック横丁文化株式会社代表。スナック女子代表。「楽天トラベル」でPR組織をゼロから立ち上げた後、2015年に独立。国内外1370軒以上のスナックを巡り、“スナックエンタテインメント”を提唱。2020年に「オンラインスナック横丁」を開始し、オンラインスナック、日本人向けのスナック初心者ツアーや、外国人向けスナックツアー、さらには全国47都道府県のスナックママを集めたスナックイベント「スナフェス」などを通じて日本独自のスナック文化の普及に取り組んでいる。

その街は、スナックのママを中心に回っていた

――まずは、五十嵐さんが「スナック」に興味を持ったきっかけについて聞かせてください。

もともと私は「楽天トラベル」で、全国の旅館やホテルを回る仕事をしていました。ただ、当時は今ほど知名度がなく、地方では「楽天? どこの会社?」と怪しまれることも多くて。営業に行っても、「この土地の何を知ってるんだ」と叱られることが珍しくなかったんです。

そんな中、岐阜県に出張することになって。訪問先の旅館の社長がかなりの堅物だと聞き、気が重くて(笑)。前泊して、情報収集しようと地元のタクシーの運転手さんに相談したら、一言、「姉ちゃん、スナック行けよ」って。

オンラインスナック横丁文化株式会社代表・五十嵐真由子さん

――情報収集の場として「スナック」をすすめられた。

当時の私は、スナックに対して「暗い・怖い・料金不明瞭」という典型的なイメージしかなく、まったく気乗りしなかったんですが、半信半疑で指定されたスナックに行ってみたんです。扉を開けると、やはり奥でおじさまたちがタバコをぷかぷか。「どうしよう…」と怯んでいたら、ママが「あちらの男性陣、あなたのために集まってくれたのよ」と。なんと、温泉協会や青年部の会長さんなど、いわば“街の重鎮”の方々が勢ぞろいして、「ママに頼まれたからさ」と迎えてくれて。運転手さんがママに伝えてくれていたんですね。とはいえ、仕事の話は最初の30分だけ。気づけばみんなで乾杯してカラオケして、深夜1時まで大盛り上がり(笑)。最後は「頑張ってねー」とハイタッチで見送ってくれました。

さらに翌朝、ホテルを出るとママが立っていて、袋に入ったおにぎりを手渡してくれました。「昨日あんなに飲んだでしょ。これ食べて、落ち着いてから行きなさい」って。私、もう大号泣しながら食べて(笑)、背中をポンと押してもらって旅館へ向かいました。それで例の堅物社長が開口一番、「昨日ママ、俺のこと何か言ってた?」って。もうそこで、「みんなママで回ってるじゃん!」って(笑)。

――とてもハートフルなお話ですね。

その瞬間、「スナックってすごいぞ」と思ったんです。外からは中が見えないのに、一歩入るとまったく違う世界が広がっている。それ以来、出張のたびにその土地のスナックに通うようになりました。

その後「楽天トラベル」を退職してPR会社を立ち上げ、時間ができて「スナック行き放題だ!」と(笑)。一気に訪問数が増え、いまでは国内外合わせて1,370軒になりました。

スナックのママは最強のファシリテーターである

スナックイメージ
提供:スナック横丁

――そんな五十嵐さんがオンラインスナック「スナック横丁」を立ち上げようと思った理由は?

実はスナックって、日本全国にコンビニ以上の数があるんです。ただ、かつては20万軒ほどあったので、どんどん減っているんですよね。ママの高齢化に加えて、常連さんも一緒に年を重ねていくので、どうしても続けられなくなる。実際、私に最初の感動体験をくれたスナックも、2年後に行ったらなくなっていて。「このままじゃ、大好きなスナックが消えてしまう。何とかしなきゃ」と思ったのが出発点でした。

さらにスナックって男性客が多くて、女性は入りにくい。だったら、もっと間口を広げるPRをしようと思い、「スナック女子(スナ女®)」として全国のスナックを行脚するうちに、メディアで取り上げられるようになっていったんです。

大きな転機になったのが、2020年のコロナ禍です。営業自粛でスナックも営業できなくなり、知り合いのママたちから「常連さんと話せる場がほしい」とSOSが届いて。そうして立ち上げたのが、オンラインスナック「スナック横丁」です。ママとお客さんが顔を見ながら乾杯できる場として広がり、これまでスナックに縁のなかった若い世代の参加も増えてきています。

――五十嵐さんのプロフィールには、「スナック業界を盛り上げるべく“スナックエンタテインメント”を創出する」と書かれています。スナックを“エンタテインメント”として届けようと思った理由は?

スナックは、公民館みたいな“街の公共空間”に近い感覚なんです。昼はおばちゃんたちがタッパーを持ち寄って夫の愚痴を言い合い、夜になると今度は旦那さんがママに妻の愚痴をこぼす。でもママはそれを上手に回して、結果的に家庭円満にしてしまう。こんなエンタテインメント、なかなかないです。

「ママ」と呼ばれるのにも理由があって、本当に母親みたいにおせっかいで、困っていたら助けてくれて、しかも楽しませてくれる。コミュニケーションでここまで人を楽しませられる場所って、唯一無二だと思うんですよね。

常連さんも含めたあの一体感も、他にはない魅力です。街に行けば必ずどこかにあって、扉を開ける勇気さえあれば、その先にはきっと楽しい時間が待っています。

スナックの看板について語る五十嵐さん
五十嵐さん「私は今では、看板を見ればだいたいどんなママがいるか分かるようになりました(笑)」

――オンラインの「スナック横丁」以外に、どんなサービスがありますか?

ひとつは、海外の方向けのスナックツアーです。コロナ禍の収束後、「次に日本へ行くならガイドブックに載っていない場所へ行きたい」と、映画やゲームに出てくる“スナック”を調べてオンラインの「スナック横丁」に来てくださる海外の方が増えました。ただ実店舗に行くとなると言葉の壁がある。そこで私たちがハブになり、英語が話せる方々に協力いただいて、2023年にツアーを始めました。同時に日本人向け初心者ツアーも始め、こちらは参加者の約8割がZ世代です。

最近は、不動産ディベロッパーさんから「スナック横丁を街に作りませんか」という相談も増えてきました。ママたちがタッグを組む“街づくり型エンタテインメント”。今年4月を皮切りに、3か月連続で東京・京橋にて、47都道府県のママが集結する「スナフェス」を開催予定です。横丁形式で飲み歩きながら、人と人との交流を楽しめる“コミュニケーションフェス”として展開します。

もうひとつが法人向けの「オフィススナック」。会議室などをスナックに変え、ママに出張してもらうと、上司と部下の間にも自然な会話が生まれるんです。社長にチーママ役をお願いすると、普段は見えない一面が引き出されて、社内の空気が一気に和らぐことも多いですね。

会社でも、海外の方でも、地方でも。ママのファシリテーション力が入ると、人は一気に打ち解ける。やっぱりスナックって、めちゃくちゃエンタテインメントなんですよね。

フルーツは「明日も元気でね」というママの愛情

フルーツについて語る五十嵐さん

――スナックといえば、「フルーツの盛り合わせ」を提供するところも多いイメージです。スナックにとって、フルーツはどんな存在ですか?

基本的にスナックって、しっかりした食事を出すお店は少なくて、柿の種やチョコレートみたいな軽いおつまみが定番なんですよね。その中で、粋なママがさりげなく出してくれるのがフルーツ。ぶどうやみかん、カットしたバナナなどを添える、このひと手間が常連さんの心をぐっとつかむんです。

お酒を飲んでしょっぱいものを食べたあと、最後にフルーツが出てくると体に水分が染みわたる感じがするんです。ママたちも「翌朝のことを考えたら、しじみ汁かフルーツよね」って(笑)。“明日も元気でね”という気持ちを込めて出しているそうです。

だからフルーツが出てくると、「ありがとう、ママ」ってなる。私にとってフルーツは、“ママからの締めの愛情”みたいな存在ですね。

――フルーツは、お客さんへの愛情の表現方法なのですね。

最近は若い人に喜んでもらおうとフルーツを出すお店も増えてきています。ママがキウイやグレープフルーツを使って、フレッシュなカクテルやノンアルコールドリンクを作ってくれることもあるんです。

スナックは、お酒を飲むことを強要する場ではありません。飲めない人でも楽しめるように、ママたちが工夫している。私自身、最初は「暗くて、おじさんにお酒を飲まされる場所」というイメージを持っていましたが、実際にはその印象をやわらかくほどいてくれるような瞬間がいくつもあります。そのひとつが、フルーツの存在だと思っています。

スナックの扉の向こうは、AIが代替できない領域

――ドールは「フルーツでスマイルを。」というメッセージを掲げているのですが、五十嵐さんがエンタテインメントとして人々をワクワクさせるために重要なポイントは、どんなことだと思いますか?

私はやはり、コミュニケーションだと思っています。「スマイル」にもいろんな形がありますよね。うれしいときにこぼれる笑顔はもちろん幸せですが、つらいときに背中を押されて、最後に笑顔で翌朝を迎える…、これもすごく大事なスマイルだと思うんです。私自身、最初にスナックと出会ったときがまさにそうでした。困っていたときに助けられて、スマイルになれた。

結局、私がスナックに行く理由って、ママや常連さんとお話ししたいから。この力を私は「スナックコミュニケーション」と呼んでいます。バーが、一対一のコミュニケーションだとしたら、スナックは、ママを起点に人と人が三角形のようにつながっていく。この広がりが、人をワクワクさせ、笑顔を生む。エンタテインメントとして一番大事なのは、やっぱりコミュニケーションですよね。

「スナック横丁」を運営する五十嵐真由子さん

――ストレスフルな今の時代だからこそ、「スナック」ができることも多そうですね。

たくさんの情報に囲まれている今の時代って、「素」になるのがすごく難しいんですよね。初心者向けのスナックツアーに来る若い人に話を聞くと、「大学時代はコロナ禍で飲みに行く経験がほとんどなかった」「会社では飲み会がほとんどない」と言うんです。さらに、「どう思われるか不安で、友達にも本音を出せない」と。でもスナックのママって、いい意味で“他人”なんです。だからこそ、力が抜ける。実際、「オフになれる場所がほしくて来ました」という方が本当に多いんです。

今の若い世代は、いろんなことを気にしながら生きている。だからこそ、スナックみたいに少し雑で、「まあいいじゃん、乾杯しようよ」って力を抜かせてくれる場が、すごく大事なんじゃないかなと思っています。安心して力を抜ける居場所を持つこと、それがこれからの時代のワクワクの源になるんじゃないかなと思っています。

――ワクワクを創るにも、まずは安心できる場所、心からくつろげる場所が必要ということですね。

はい。そうした意味でも、スナックは、これからますます必要とされる存在になっていくと思っています。今、AIなどのハイテクノロジーがどんどん進化して、いろいろな仕事がAIに置き換わっています。そんな中で人間が力を発揮できるのは、やっぱりコミュニケーションの領域。これはAIにはなかなか代替できない部分だと思うんです。ママたちが自然にやっている、場を回して人の気持ちをほぐすファシリテーション力。そういう力が、これからの社会の幸福度を高めていくんじゃないかなと思っています。

実際、スナックでは予期せぬことが毎日のように起きますし、来る人も本当にさまざま。だからこそ面白い。扉を開ければ、そこにはエンタテインメントがある。スナックは、これからもそんな場所であり続けるんじゃないかなと思っています。

※記事の情報は2026年4月28日時点のものです。